山口地方裁判所下関支部 平成6年(ワ)131号 判決 1998年5月11日
原告
峯松武人
同
田中和男
同
西田義秋
同
藤田哲雄
同
稲田二六
同
小西次夫
同
久保江功
同
岡崎功
同
橋本泰彦
同
田畑眞琴
同
大野義人
同
福吉征紀
同
古田勝
同
私鉄中国地方労働組合サンデン交通支部
右代表者執行委員長
藤井巖
原告ら一四名訴訟代理人弁護士
田川章次
同
臼井俊紀
被告
サンデン交通株式会社
右代表者代表取締役
林孝介
右訴訟代理人弁護士
沖田哲義
主文
一 被告は、原告峯松武人、同田中和男、同西田義秋、同藤田哲雄、同稲田二六、同小西次夫、同久保江功、同岡崎功、同橋本泰彦、同田畑眞琴、同大野義人、同福吉征紀及び同古田勝に対し、各金九〇万円、原告私鉄中国地方労働組合サンデン交通支部に対し、金六〇万円並びに右各金員に対する平成六年五月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告らに対し、各金一一〇万円及びこれに対する平成六年五月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、大正一三年七月九日、下関市において設立され、自動車による一般旅客運送業等を目的とする資本金約四億四九〇〇万円の株式会社である。平成六年三月三〇日現在の従業員数は九八一名であり、そのうちバス運転手は四三二名、特別嘱託運転手は三九名である。また、被告所有バス台数は四〇八両である。
(二) 原告私鉄中国地方労働組合サンデン交通支部(以下「原告組合」という。)は、被告従業員六六名をもって組織する労働組合である。
その余の原告ら(以下「原告運転手ら」という。)は、いずれも被告に勤務するバス運転手であって(ただし、原告田中和男は平成六年七月一日付けで被告を退職した。)、現在原告組合に所属しているものである(なお、一部の原告運転手らは、一時、原告組合を脱退し、その後、再加入している。)。
2 労働組合の分裂
(一) 被告には、現在、その従業員をもって構成する労働組合が二つ併存しており、その一つが原告組合であり、他の一つがサンデン交通労働組合(平成六年五月現在の組合員数は五九〇名である。以下「サン労組合」という。)である。
すなわち、原告組合は、昭和二一年二月二八日、被告の前身である山陽電気軌道株式会社の企業内単一労働組合として結成され、私鉄総連の結成に参加したが、昭和二八年二月、単位組合の連合体である中国私鉄連合会が個人加盟の私鉄中国地方労働組合として単一組織に改組された際、これに加入して現在の組織形態に改めた。
(二) 他方、被告は、昭和三四年一二月、関門国道トンネル開通を見込んでしたバス路線拡張計画の挫折等の経営ミスから危機意識に駆られ、これを低賃金政策によって切り抜けるため、当時、私鉄中国地方労働組合の中にあっても高い労働条件を確保し、強大な力を有していた原告組合を中傷し、また、一部組合員を会社職制に登用するなどして原告組合に分裂を持ち込み、いわゆる「御用組合」としてのサン労組合を結成させた。これにより、被告には、原告組合とサン労組合が併存する状態が生まれた。
(三) 被告は、右組合分裂後、一貫して原告組合を敵視し、その壊滅を狙って、原告組合員に対する登用差別、バス配車差別、懲戒の差別的実施等考えられる限りの組織攻撃を加えて現在に至っている。
3 配車差別
(一) 担当車両の労働条件規定性
(1) 被告は、その旅客の運送事業の用に供するため、ほぼ毎年新車を購入してきているが、被告においてはいわゆる「担当車制」がひかれていることから、右新車は購入の都度担当運転手が決定され、その運転手に配車されることになっている。
(2) いつの時点をもって、おろし立ての車両が新車といえなくなるのかについては、その車両の製造時の固有条件(諸部品の製造時の製品の精度等)や、購入後の使用状況、手入れ状況等によって左右されるものではあるが、使用頻度も高く、走行距離や多数の乗客を乗せるバスの場合、経年変化による車両の劣化は、普通乗用車に比較してその進行が早いこと、被告における運転手の一般的意識などからして、一応、購入後まる二年を経過するまでとするのが相当である。
(3) 担当する車両が新車であるか否かの違いは、運転手の労働内容を左右し、労働条件を規定するという関係にある。すなわち、左記のとおり、新車を担当する運転手は、旧車を担当する運転手と比較して肉体的に疲労が少なく、また、精神的にも安定した気持ちを保つことができる。のみならず、バス企業においては、担当車両は運転手の技能・経歴を象徴するものと一般に考えられており、担当車両の良し悪し、新車の担当の有無によって、実際上、運転手の人格まで評価されることになる。
記
具体的に新旧車両の相違点を摘記すると、次のとおりである。
ア ハンドル
昭和五四年(一九七九年)以降導入の車両(以下「七九年式車両」などという。以下同じ。)については、すべてパワーステアリングが装備されるようになっており、以前のように、これが装備されない車両に乗務する場合ほどの差異はなくなったが、車両が古くなったことによる原因不明のハンドルぶれが発生する場合があり、これによる心労は無視できない。
イ クラッチ
現在、エアーブースター方式がすべての車両に採用されているが、古くなると、切れが悪くなって滑ったり、操作が重くなるものがある。
ウ ブレーキ
エアーでブレーキオイルを押す複合式ペダルが、八七年式車両以降は採用されている。それ以前の車両は、踏み込み式ペダルであり、効きが悪く、古くなると制動力も落ちてきて、追突の危険を感じ、運転手は精神的に疲労する。
エ チェンジレバー
九〇年式車両以降については、エアーによりチェンジを操作するフィンガーコントロール方式の導入により、普通乗用自動車なみの軽い感じで操作できるようになっている。それ以前の車両については、レバー操作が重く、気を使い、運転手は疲労する。
オ 冷暖房装置
現在は、すべての車両に冷暖房装置が装着されるようになっているが、最近のものはオートエアコンとなり、一定の温度を設定すれば、車両全体が快適に温度が管理される。これに対し、古い車両は、車体にガタがきて気密性が下がり、特に、冷房が効きにくくなることが多く、また、冷暖房の際に温度差が生じ、乗客に苦情をいわれることがある。
カ エンジン
新しいほど騒音も少なく、力が強くて出足がよい。運行時間に遅れが少ないので、ストレスがたまりにくい。古くなると、騒音も大きく、力が落ちて出足が鈍くなり、運行時間も遅れやすくなり、疲労が蓄積する。
キ 乗客の安全対策
最近導入される車両は、支柱にクッションが巻かれ、床も全面リノリュームの滑り止めが施され、後部ドアには乗客の手が挟まれないようなセンサーが外に設置されており、乗降ステップも低くなって、乗降しやすい。また、乗降口に車外灯があり、ステップにもライトが装備されている。これに対し、古い車両には、このような設備がないため、車内事故が発生しやすく、運転手は、被告から車内事故の責任を問われたり、乗客から、「ステップが高くて乗りにくい。」などと苦情をいわれたりするため、精神的負担が大きい。
ク 安全運転対策
運転手が安全に運転できるための装備が進歩しており、新しい車両ほど運転しやすく、事故発生の確率も低くなっている。すなわち、運転手前面のフロントガラスのウインドウ面が広くなり、前面の視認性がよい。前照灯も、新しいものはハロゲンランプが採用されていて、格段に明るくなっている。ワイパーも、間欠作動装置があり、拭き取り面積も広くなっている。バックミラー、アンダーミラー等も大きく見やすくなっている。これに対し、古い車ほど、右の装備がなく、安全運転のため、より神経を集中させなければならず、運転手の疲労度も高い。
(二) 配車慣行
右のとおり、労働条件を基本的に決定する担当車がどのように決定されるか、とりわけ新車が誰に配車されるかということは、バス運転手にとって最大の関心事である。
被告においては、昭和三四年の組合分裂以前は、熟練度を基準とし、それを測る目安としての勤続年数に事故歴、年齢、車両の取り扱い方等を考慮し、各営業者の所長、操車係、整備班長が協議して新車担当者を決定していた。その配車慣行は、以下のとおりである。
(1) 入社後一定期間経過した者は、新車を配車される対象になる。
(2) 勤続年数の経過により順次新車を配車する。その場合、事故歴、車両取り扱いの優劣を考慮する。
(3) 期間の経過(二ないし四年)により、車両の状態が低下したときは、改めて勤続年数を基準として順次配車する。
(三) 配車差別の実態
被告は、組合分裂以後、右の配車慣行を無視し、昭和三八年ころ、彦島営業所における配車差別に関し、原告組合が山口地方労働委員会に対して申し立てた不当労働行為救済申立事件との関係で、例外的に四台の新車を配車したほかは、原告組合所属の運転手には一切新車を配車しなかった。被告は、同年初めから平成六年二月までの間、少なくとも五七八台の新車を購入しているが、右の四台が原告組合所属の運転手に配車されているだけで、その他の新車五七四台はすべてサン労組合所属の運転手に配車されている。そして、サン労組合所属の運転手に対してなされた新車の配車は、前記配車慣行によってなされている。原告運転手らで過去に新車の配車を受けている例があっても、それはサン労組合に所属している期間であって、原告組合に加入すると前記配車慣行は無視され、新車の配車はなされていない。
原告運転手らは、その経歴と事故の有無、車両取り扱いについて見る限り、同一経歴のサン労組合所属の運転手と比較して何ら問題とされるところはない。被告が原告運転手らに対して一切新車を配車しないことは、前記配車慣行に違反するものであり、同原告らが原告組合に所属していることを理由とする不当な差別待遇である。
4 被告の責任
右の配車差別は、原告運転手らが原告組合に所属していることを理由とするものであり、以下のとおり、原告らの団結権、原告運転手らの期待権及び人格権を故意に侵害する不法行為である。
よって、被告は、これによって原告らが被った後記5記載の損害を賠償すべき義務がある。
(一) 団結権の侵害
右の配車差別は、原告組合の組織を切り崩し、組織拡大を阻止することを企ててなされたものであり、原告組合の団結権を侵害するとともに、原告運転手らに対する不利益取り扱いとして、同原告らが有する団結権をも侵害するものである。
(二) 期待権の侵害
被告の前記配車慣行に従えば、原告運転手らは、配車につき強固な期待的利益を有する地位にあるものというべきである。同原告らには、サン労組合所属の運転手の同経歴の者と比べて前記配車慣行の適用を拒否されるような特別の事情がないのであるから、同原告らの有する地位は、単なる事実上の期待もしくは希望にとどまらず、一種の期待権として法律上の保護が与えられるものである。
(三) 人格権の侵害
原告運転手らが独立の人格者として社会的に尊重されるべき人格権を有することはいうまでもない。同原告らは、新車の配車を一切受けないため、運転手としての技能・経歴が劣る者であるとして対外的に公表されることとなり、そのことが家族、知人、隣人らにも誤認されてしまい、人格権の侵害を受けている。
5 損害
(一) 慰謝料 各自金一〇〇万円
(1) 原告運転手ら
原告運転手らは、車両が渋滞したり混雑したりするなかで、ハンドル、クラッチ、ブレーキ等が重くて、操作が難しく、しかも、夏には冷房もなく、暑さ、騒音、排気ガスに悩まされながら古い車両を運転しており、耐え難い肉体的・精神的苦痛を被っている。また、同原告らは新車の配車を受けないばかりか、経歴の浅いサン労組合所属の運転手の使い古した車両を担当させられ、名状し難い屈辱を与えられ続けている。さらに、同原告らは、いつまでも古い車両を担当させられているため、家族を含めた周囲の者から勤務成績や人格までも疑われるようなこともあり、そのことが家族にまで肩身の狭い思いをさせることになって、その心労は極めて大きいものがある。
原告運転手らは、遅くとも昭和五七年初めから本訴提起時である平成六年五月二〇日までの間に新車の配車を受けるべきであったにもかかわらず、右のとおりの肉体的・精神的苦痛を被ったのであり、これを慰謝するためには、原告運転者(ママ)ら各自につき少なくとも金一〇〇万円が相当である。
(2) 原告組合 金一〇〇万円
原告組合は、合理的理由がない限り、サン労組合より不利益な取り扱いをされないという労働法上の保障規定によって保護されるべき法律上の利益を有する。しかるに、前記のとおり、被告の不合理な配車差別によって右の利益を侵害され、組織拡大を妨害されたのであり、組合固有の団結権を侵害された。また、原告組合は、労使間の法秩序たる不当労働行為禁制によって自主的労働者集団たる労働組合が当然有している組合と組合員は不可分であるということから生ずる主観的・客観的感情利益も著しく侵害された。
原告組合が、遅くとも昭和五七年初めから本訴提起時である平成六年五月二〇日までの間に被った右の無形損害を賠償するためには少なくとも金一〇〇万円が相当である。
(三)(ママ) 弁護士費用 原告ら各自につき金一〇万円
原告らは、本訴提起にあたって原告ら代理人弁護士に訴訟委任をして弁護士費用を支払う旨約束している。被告が負担すべき弁護士費用は、原告ら各自につき金一〇万円が相当である。
6 まとめ
よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償(昭和五七年初めから本訴提起時である平成六年五月二〇日までの分)として、各金一一〇万円及びこれに対する不法行為後の日である平成六年五月二八日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)、(二)の事実は認める。
2 請求原因2の事実のうち、(一)は認める。同(二)のうち、サン労組合が昭和三四年一二月に結成されたことが(ママ)認めるが、その余は否認する。同(三)は否認する。
3(一) 請求原因3(一)の事実のうち、(1)は認めるが、(2)、(3)は否認する。
原告運転手らを含めた被告の全運転手は、おろし立ての新車とそうでない車両とを購入時から概ね四年を経過したかどうかで区別している。そして、技術革新の進んだ現在においては、昭和五〇年代、六〇年代以降に導入された車両の性能及び居住性は、新車も旧車もほとんど差異はない。
すなわち、原告らは、新車にはメーカーが新しく開発した新装備が多数搭載されており、旧車を担当する場合と比べて肉体的、精神的疲労が格段に少ないと主張するが、そもそもすべての新車にこのような新装備が搭載されるとは限らない。その車両の大きさや構造、用途によっては搭載しないこともある。したがって、新装備が搭載されたからといって、直ちにこれを根拠に新車と旧車との運転性能及び居住性を比較するのは不可能である。また、車両は、経年変化を避けることができず、年月の経過によって部品等が摩耗したり、機能が低下したりするが、被告は、このような変化があると、一か月、三か月、一二か月の各定期点検や日々の運転手の報告により、その都度、劣化した部品を交換するなどの整備を行っている。これにより、経年変化による車両の性能の低下等をほぼ解消することができる。加えて、バス車両自体、一般の自家用乗用車と比べて頑丈にできており、現在では新車と旧車とを区別する実益がほとんどなくなっている。
以上のとおり、昭和三〇年代、四〇年代ならいざ知らず、バス車両の性能や居住性が大幅にアップした現在においては、新車も旧車も実際上ほとんど差異はないのであり、担当する車両が新車であるか否かの違いが運転手の労働内容を左右し、労働条件を規定するという関係にあるとは到底いえない。
(二) 請求原因3(二)の事実は否認する。
(三) 請求原因3(三)の事実のうち、原告組合が、昭和三八年ころ、彦島営業所において配車差別があったとして山口地方労働委員会に対して不当労働行為救済の申立てをしたこと、そのころ、被告が原告組合所属の運転手に四台の新車を配車したこと、被告が、同年初めから平成六年二月までの間、少なくとも五七八台の新車を購入し、右の四台のほかはすべてサン労組合所属の運転手に配車したことは認めるが、その余の事実は否認する。
被告は、購入した新車を必要数に応じて各営業所に割り当てる。そして、具体的に誰に新車を配車するかについては、各営業所の所長の裁量に委ねている。被告が原告運転手らに新車(おろし立ての新車)を配車しないのは、原告運転手らの生産性が低いからである。
すなわち、一般的にいって、労働者の生産性には、質の問題と量の問題とがある。運転手の生産性の質の問題として考えられるのは、事故の数や時間の正確性及び乗客に対する接客態度等であり、量の問題として考えられるのは、主に時間外労働の長さである。営利企業にとっての有益な労働者とは、この生産性の高い労働者のことであり、生産性の高い労働者を低い労働者よりも論功行賞をもって優遇することは当然許される。このことは、被告においても同様である。バスの運転手の場合、接客態度を除き、生産性の質の点では余り差異がない。しかし、生産性の量の点では大きく差異が出てくる。原告運転手らの生産性のうち、質の問題は別にして、量(時間外労働)の点は、極めて低劣である。つまり、原告組合所属の運転手らとサン労組合所属の運転手らの時間外労働の長さを比較すると、原告組合所属の運転手らの方が極めて少ない。時間外労働の多い運転手に論功行賞として新車を配車するのは、営利企業として当然のことであり、逆に、時間外労働の少ない運転手に新車を配車しないことも、当然のことなのである。以上のとおり、時間外労働の極めて少ない原告運転手らに対して新車を配車しなかったことは、営利企業にとって当然のことであり、原告運転手らに対する不当な差別的処遇ではない。
4 請求原因4ないし6は全部争う。
三 抗弁(消滅時効)
1 仮に、被告が原告運転手らに新車を配車しなかったことが原告らに対する不法行為になるとしても、原告らは、遅くとも本訴を提起した平成六年五月二〇日の三年以上前である平成三年四月には右不法行為による損害及び加害者を知っていた。
2 被告は、原告らに対し、平成六年一〇月三一日の第三回口頭弁論期日において、右不法行為による損害のうち、平成三年五月一九日以前に発生した分につき消滅時効を援用した。
四 抗弁に対する認否
明らかに争わない。
五 再抗弁(公序良俗違反)
1 広島高等裁判所(平成三年(ネ)第四〇四号損害賠償請求控訴事件、平成四年(ネ)第三五二号同附帯控訴事件)は、平成六年三月二九日、原告組合及び同組合所属のバス運転手らと被告との間の同種事件(以下「前訴配車差別事件」という。)につき、平成三年九月三〇日言い渡された第一審山口地方裁判所下関支部判決(昭和五七年(ワ)第一六六号、昭和六一年(ワ)第一六九号)の認定した慰謝料額をほぼ倍増する判断を示し、最高裁判所(平成六年(オ)第一四六五号)も、平成九年六月一〇日、右高等裁判所判決を支持し、被告の上告を棄却した。
2 高等裁判所、最高裁判所ともに、被告の原告組合及び同組合所属の運転手に対する配車差別を明確に違法と断定している。しかるに、被告は、右の最高裁判決が出た後もなお不当労働行為はないと強弁しているのであり、法無視、裁判所無視の態度は不遜極まりない。
このような被告の態度を前提とすれば、消滅時効の援用は公序良俗に反して許されない。
六 再抗弁に対する認否
再抗弁1の事実は認める。同2は争う。
理由
一 請求原因1(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。
二 労働組合の分裂(請求原因2)について
請求原因2(一)の事実及び同(二)のうち、サン労組合が昭和三四年一二月に結成された事実は当事者間に争いがない。
右当事者間に争いがない事実及び証拠(<証拠略>)によれば、原告組合は、昭和一二年二月二八日に結成された後、中国地方労働界の中核的存在として活動し、私鉄大手と比較して遜色のない賃金を獲得するなど、その力は強大なものとなったこと、被告は、長らく原告組合と協調する方針をとってきたが、昭和三三年の関門国道トンネル開通をひかえ、バス路線の拡張を目指したが実現せず、かえって借入金金利の増加が経営圧迫の要因となったことなどから、人件費の上昇をいかに低く抑えるかが経営上の重点施策として認識されるようになったこと、そこで、被告は、昭和三四年一〇月ころ、労務関係部門を強化し、従業員の監督・指導を任務とする指導員等を大幅に増員し、元組合三役等を抜擢して新係長に当てるなどして原告組合との対決姿勢を強め、折からの労働協約改訂をめぐって労使双方が激しく対立するに至ったが、さらに同年一二月、被告は、一戦術として積極的な組合分裂工作を展開し、それを主たる原因として、政治闘争偏重、闘争至上主義、共産党色の強い組合などとの原告組合批判を掲げ、右新係長を三役とする従業員組合が編成され、紆余曲折の後、同月二九日、サン労組合(ただし、当時は山陽電軌労働組合)が結成されたこと、原告組合は、右分裂によって組織壊滅の危機に見舞われたが、一方、サン労組合は、被告の援護下に組織拡大の一途をたどり、翌昭和三五年五月には、その所属組合員数において原告組合と拮抗する勢力を獲得したこと、このような状況の中で、原告組合と被告との関係はますます悪化し、労使関係の正常化が見られないばかりか、被告は、原告組合所属の従業員に対し、人事上の処分、配転、バス担当替え、新車割当て、運番の取決め等多くの関連で強い差別的、攻撃的態度を示したこと、そのため、原告組合は、被告との対決色を強め、昭和三六年春闘において車両確保戦術をとったことから、被告が原告組合員を強盗罪等で告訴して刑事事件にまで発展し、その後も昭和五〇年代まで原告組合と被告との間には労使紛争が絶えず、被告の支配介入、人事処分に対する不当労働行為の救済申立て、地位保全の仮処分の申立てなどが続発したこと、そして、昭和五七年に至り、再抗弁記載の前訴配車差別事件が提訴されたこと、以上の事実が認められる。
三 配車差別(請求原因3)について
1 担当車両の労働条件規定性(請求原因3(一))
(一) 請求原因3(一)(1)は当事者間に争いがない。
(二) 右当事者間に争いがない事実に加え、弁論の全趣旨及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告は、各営業所のバス車両一台ごとに担当運転手を指定し、原則として当該バスにはその運転手だけが乗務するという、いわゆる「担当車制」を採用していること(なお、運転手の中には、担当車を持たないフリーの運転手も一部存在する。)、新車(ここでは、原告組合代表者の供述にも鑑み、購入時から四年を経過しない車両をいう。)とそれ以外の旧車とを対比すると、現時点においても、概ね請求原因3(一)(3)アないしクのような相違点があり、車両の年式が新しいほど性能及び居住性に優れており、バス運転手が新車を担当するか旧車を担当するかによってその肉体的・精神的疲労度が異なること、そのため、担当車両が新車か旧車かが労働内容を左右し、労働条件を規定する関係にあること、これに伴って、バス運転手の間では、担当車両の良し悪しが当該運転手個人の技能、人格的評価を示すものとして意識されており、バス運転手らは、新車を担当するかどうかにつき重大な関心を抱いていること、以上の事実が認められる。
(三) 被告は、請求原因に対する認否3(一)のとおりに主張し、昭和三〇年代、四〇年代ならいざ知らず、バス車両の性能や居住性が大幅に向上した現在においては、新車も旧車も実際上ほとんど差異はないとして、担当する車両が新車であるか否かの違いが運転手の労働内容を左右し、労働条件を規定するという関係にあるとはいえないと反論する。
しかし、一般に、新車の方が旧車よりも車両の装備、性能、居住性等の面において優れていることは明らかであるし、いかにバス車両の性能等が向上しようとも、また、いかに保守点検を徹底しようとも、経年変化による車両の劣化、老化は避けられず、したがって、これにより労働条件が悪化することもまた明らかである。そして、それがいかなる程度のものであるかは、当該労働に従事するバス運転手らが最も熟知するところであり、そのバス運転手ら(原告運転手らは勿論、サン労組合所属の運転手らもそうと思われる。)がほぼ一致して新車を希望すること自体、これが決して些細なものではないことを物語っている。事実、被告自身すら、生産性の高い労働者に対する論功行賞として新車を配車する旨明言していることからしても、新車と旧車に実際上ほとんど差異がないなどと言えるはずがない。
2 配車慣行(請求原因3(二))
証拠(<証拠略>)によれば、組合分裂前においては、新車(ここでは、おろし立ての車両をいう。)を具体的にどの運転手に配車するかの基準について、原告組合と被告との間で別段協定はなく、被告からも一定の基準が明示、施行されてはいなかったが、事実上の取扱いとして、概ね各運転手の勤続年数、運転経験年数、運転技術、担当車歴、健康、勤務成績、事故歴等を比較考慮して、運転手間で序列を設定し、より上位の者に担当させる方法がとられていたこと、右の考慮すべき諸事項のうちでは、勤続年数、運転経験年数が大きな比重をしめていた(勤続年数が長くなり運転経験年数が一定の年数以上に達すると、特段の事情のない限り、新車を担当することができる、というのが運転手の共通の認識であった。)こと、組合分裂後も(少なくとも、前訴配車差別事件が提訴された昭和五七年ころまで)、サン労組合所属の運転手の間では概ね勤続年数・運転経験年数に従って新車が割り当てられていること、なお、その後、昭和三六年六月六日、一旦、原告組合と被告との間で、「勤続年数、免許取得年限、出退勤、事故回数、諸規定の遵守程度を加味してその公正を期する。」旨の配車協定が締結されたものの、細目の協定締結までには至らなかったこと、以上の事実が認められる。
また、証拠(<人証略>)によれば、現在、被告が新車担当者を決定する具体的手順は、まず、被告自動車部が整備課と協議し、使用に耐えない車両の数及び会社全体の収支状況等を勘案して新車購入台数を決め、それを各営業所に割り当て、その後、各営業所において、所長、所長代理、運転副長らで構成する管理者会議を開き、その協議を経た上、所長が新車担当の候補者を決めてこれを被告自動車部に上申し、自動車部長において最終決定をしていること、もっとも、同部長において右上申を覆した例はなく、事実上、所長による右上申をもって最終決定がなされたと同様であること、右上申に当たっては、各運転手の勤続年数、免許取得年限、運転経験年数、出退勤状況、事故歴、服務関係規定の遵守程度、担当車歴等が考慮されていること、以上のとおりの事実が認められる。なお、(人証略)は、右考慮事項に従って第一次審査を行った上、第二次審査において、被告への協力度、すなわち、総労働時間、時間外労働時間の量を考慮し、これが多い運転手に新車を配車することになる旨証言するけれども、その反対尋問をみる限り、右証言は甚だ疑問であり、被告ないし各営業所長において、個々の運転手について右総労働時間、時間外労働を具体的資料に基づいて検討した上、新車の配車を決定しているとは到底思われず、むしろ、前訴配車差別事件同様(<証拠略>)、原告組合そのものについて協力度がないとの評価を前提として総じて原告組合員らは協力度が足りないものと評価し、サン労組合員をも含めた個々の運転手ごとの個別的検討はしていないものと推察される。
3 配車差別の実態(請求原因3(三))
(一) 被告が、昭和三八年ころ、原告組合所属の運転手に四台の新車を配車したこと、原告組合が、同年ころ、彦島営業所において配車差別があったとして山口地方労働委員会に対して不当労働行為救済の申立をしたこと、被告が、昭和三八年初めから平成六年二月までの間、少なくとも五七八台の新車を購入したこと、被告は、新車の配車につき、右の四台のほかはすべてサン労組合所属の運転手に配車したことの各事実は当事者間に争いがない。
(二) 右当事者間に争いがない事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告は、組合分裂後の昭和三八年初めから平成六年二月までの間、少なくとも合計五七八台の新車を購入したが、これについては、昭和三八年ころ、彦島営業所における配車差別について、原告組合が山口地方労働委員会に対して不当労働行為の救済を申し立てた際、同委員会の斡旋により、原告組合所属の運転手に新車四台の配車をしたほかは、すべてサン労組合所属の運転手に配車し、原告組合の再三の申入れにもかかわらず、原告組合所属の運転手に対しては新車を一切配車していないこと、原告運転手らのうち、原告峯松武人だけは新車の配車を二回受けているが、それは同原告がサン労組合に所属していた期間だけであって、原告組合に復帰した昭和五九年三月二七日以降は新車の配車を受けていないこと、後記消滅時効との関連で最も重要となる平成三年五月から平成六年五月までの期間についてみると、この間、原告峯松武人ほか四名が勤務する新下関営業所には七台(乗合部門について、以下同様)、原告田中和男ほか二名が勤務する小月営業所には一〇台(<証拠略>)、原告久保江功ほか三名が勤務する彦島営業所には七台、原告福吉征紀が勤務する北浦営業所には一〇台の新車がそれぞれ割り当てられたが、これらも全部サン労組合所属の運転手に配車されたこと、以上の事実が認められ、この認定事実に加えて、原告運転手らが同程度の経歴を有するサン労組合所属の運転手と比較してバス運転手としての技量、能力が全体として劣っていると認めるべき証拠はないこと、前記二で認定したとおりの組合分裂と被告によるサン労組合援護、原告組合差別方針に基づく労務政策からして、被告が原告組合の存在及びその活動を嫌悪していると認められることを総合考慮すると、原告運転手らが新車の配車を受けることができなかったのは、特段の合理的理由が認められない限り、被告が、原告運転手らを原告組合の組合員であることの故に差別し、これによって原告組合の内部に動揺を生じさせ、ひいては原告組合の組織を弱体化させようとの意図の下に行ったものであり、労働組合法七条一号、三号の不当労働行為を構成するものと推認することができる。
(三) そこで、右合理的理由の存否について検討するに、被告は、原告運転手らに新車を配車しないのは、同原告らの時間外労働が少なく、生産性がサン労組合所属の運転手と比較して低いからであり、生産性の高い運転手、すなわち、時間外労働の多い運転手に論功行賞として新車を配車し、そうでない運転手に新車を配車しないのは、営利企業として当然のことであり、何ら不当ではないと主張する。
しかし、弁論の全趣旨及び証拠(<証拠略>)によれば(乗合部門についてのみ述べる。)
(1) 被告は、平成五年中に、小月営業所勤務でサン労組合所属の中原幸人、中村敏明、伊藤勝見に対して新車を配車したが、平成四年度賃金台帳である(証拠略)からみた右中原、伊藤の同年度の年間超過労働時間数は、順に、五七五時間、五三七時間であり、同営業所に勤務する原告田中和男(五六一時間)、同稲田二六(五三八時間)、同小西次夫(四九一時間)のそれを上回っているものの、右中村敏明のそれは五〇八時間であり、原告田中和男、同稲田二六を下回っている。また、被告は、平成六年中に、小月営業所勤務でサン労組合所属の中山二千六百に対して新車を配車したが、平成五年度賃金台帳である(証拠略)からみた右中山の同年度の年間超過労働時間数は三三六時間であり、原告稲田二六(六八五時間)、同小西次夫(六一四時間)、同田中和男(六〇二時間)のそれを下回っていること、右中山の平成四年度の年間超過労働時間数も二九二時間であり、右原告らの同年度のそれとの比較においてもこれを下回っている。
(2) 次に、被告は、平成五年中に、彦島営業所勤務でサン労組合所属の金田和治、山本勝正、関谷務、藤田正に対して新車を配車したが、右金田、山本、関谷の平成四年度の年間超過労働時間数は、順に、九六九時間、九二一時間、八四七時間であり、同営業所に勤務する原告岡崎功(七七九時間)、同久保江功(七二四時間)、同田畑眞琴(六三四時間)、同大野義人(六二〇時間)のそれよりも上回っているものの、右藤田のそれは五九三時間であり、右原告らを下回っている。なお、平成六年は、彦島営業所への新車の配車はない。
(3) さらに、被告は、平成五年中に、北浦営業所勤務でサン労組合所属の灘智国、中司真人、福吉照生に対して新車を配車したが、右灘、中司の平成四年度の年間超過労働時間数は、順に、六五七時間、六三五時間であり、同営業所に勤務する原告福吉征紀(五一三時間)のそれを上回っているものの、右福吉照生のそれは四五八時間であり、同原告を下回っている。なお、平成六年は、北浦営業所への新車の配車はない。
以上の事実が認められるところ、右平成四年度、五年度だけの数値からは一概にいえないにしても、少なくとも右認定事実及び(証拠略)によれば、被告が新車を配車するに当たり、必ずしも年間超過労働時間数が格別に重視されていると認めることはできず、なお前記のとおりの勤続年数・運転経験年数等も相当に考慮されているものと思われる。そうであれば、弁論の全趣旨及び証拠(<証拠略>)により認められる原告運転手らのそれがサン労組合所属の運転手らに比べて劣っていると認めるべき証拠がないにもかかわらず、同原告ら(ただし、原告峯松武人については、前記のとおり、サン労組合加入時期のみ新車が配車された事実があるが、それがなにを意味するかは明らかであろう。)がこれまでかっ(ママ)て一度として新車の配車を受けていないというのはあまりに異常であり、かえってこのことは、前記2末尾の事情と相まって、理由はともあれ、ともかく原告組合所属の運転手には新車を配車しないという、被告の原告組合及び原告運転手らに対する確固とした差別意思の存在すら窺わせるというべきである。
右次第であれば、被告が原告運転手らの時間外労働の少ないことのみを理由に新車を配車しなかったとは到底認められず、被告の前記主張は採用できない。
(四) 以上のとおり、被告が原告運転手らに対して新車を配車しなかったことにつき合理的理由は認められないから、被告の右配車差別は原告組合及び原告運転手らに対する不当労働行為を構成するものというべきである。
四 被告の責任(請求原因者(ママ)4)
ところで、複数組合併存下にあっては、すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されない(最判昭和六〇年四月二三日民集三九巻三号七三〇頁参照)。そして、この理は、当該各組合に所属する組合員に対しても同様に当てはまる。
しかるに、被告は、前記のとおり、昭和三八年初めから、わずか四台を除き、新車をすべてサン労組合所属の運転手だけに配車して原告運転手らを原告組合員であることの故に差別し、原告組合及び原告運転手らをサン労組合及びその組合員に比較して不利益に取り扱ったものであるから、これが労働組合法七条一号、三号に違背し、かつ、一般私法上も違法な行為であることは明らかである。そして、右配車差別により、原告運転手らは、その団結権を侵害されるとともに、サン労組合所属の運転手のうちの同程度の経歴を有する運転手と対等な立場で新車の配車を受けるべき期待権を侵害された上、同原告らが運転手としての技能、経歴が劣っている者であるとして世間に公表されたと同様の処遇を受けて人格権の侵害を受けたことが認められる。また、原告組合も、右の配車差別により組合としての組織の維持、発展が阻害され、憲法その他の法律によって保障されている固有の団結権の侵害を受けたことが認められる。
したがって、被告による右配車差別は、原告らに対する不法行為を構成するから、被告は、これによって原告らが被った後記損害を賠償する義務がある。
五 損害(請求原因5、抗弁、再抗弁)
1 消滅時効
(一) 原告らが、遅くとも本訴が提起された平成六年五月二〇日の三年以上前には、被告による配車差別の不法行為につき、その損害及び加害者を知っていたことについて、原告らは明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。また、被告が、平成六年一〇月三一日の第三回口頭弁論期日において、右不法行為による損害のうち、平成三年五月一九日以前の分につき消滅時効を援用したことは、記録上明らかである。
(二) 再抗弁1の事実は当事者間に争いがない。
しかし、被告による右消滅時効の援用は公序良俗に反して許されないとの再抗弁2の主張は、採用できない。
(三) よって、被告による配車差別により原告らが被った損害のうち、平成三年五月一九日以前に発生していた分の損害賠償請求権は、時効により消滅したというべきである。
2 損害額
そこで、平成三年五月二〇日から原告らの求める本訴提起時である平成六年五月二〇日までに生じた損害額について考えるに、まず、右損害の実質は、右期間中において、原告らが被った前記団結権等の侵害に基づく肉体的・精神的苦痛ないしそれに相当する無形損害というべきところ、原告運転手らは、前記のとおりの長期にわたって差別処遇、不利益取扱いを受けたものであり、右三年間の苦痛はその累積されたものであるから、前記消滅時効にかかわらず、この長期にわたる苦痛を事実として考慮することが許されること(時効にかかるのは、あくまで法的権利としての損害賠償請求権であって、これが消滅したからといってその基礎となる事実までがなくなるわけではない。)、右三年間については、前記三3(二)で認定したとおりの新車の配車がなされており、被告において右差別処遇等の是正措置を採ることが可能でありながら、不当労働行為意思、すなわち、故意をもって敢えて配車差別を続けたこと、しかも、平成三年九月三〇日には前訴配車差別事件の第一審判決が言い渡されており、被告の行為が違法である旨認定された事実があること、これらの諸事情を総合すれば、この間の原告運転手らの精神的苦痛はかなり重大であり、これに伴って原告組合の被った右無形損害もまたかなり重大であると評価される。そこで、右諸事情を考慮し、その損害額を次のとおりと算定する。
(一) 慰謝料ないし無形損害
(1) 原告運転手ら 各自金八〇万円
原告運転手らが旧車ばかり担当させられたことにより、肉体的・精神的苦痛を受け、同程度の経歴を有するサン労組合所属の運転手と対等な立場で新車の配車を受けるという期待権を侵害されたことなどによる精神的損害のうち、平成三年五月二〇日から本訴提起時である平成六年五月二〇日までの間に生じたものに対する慰謝料額は、原告運転者ら各自につき金八〇万円とするのが相当である。
(2) 原告組合 金五〇万円
原告組合が被告による組織的な配車差別によって組織拡大を妨害され、憲法及び団(ママ)結権を侵害されたことにより被った右(1)と同一の期間の損害に対する賠償額は、金五〇万円とするのが相当である。
(二) 弁護士費用 原告ら各自につき金一〇万円
原告らが、本訴の提起・追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかである。そして、右認定の慰謝料額等及び本件訴訟の難易、経過等に照らすと、被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は、原告ら各自につき金一〇万円とするのが相当である。
六 結論
よって、本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償として、原告峯松武人、同田中和男、同西田義秋、同藤田哲雄、同稲田二六、同小西次夫、同久保江功、同岡崎功、同橋本泰彦、同田畑眞琴、同大野義人、同福吉征紀及び同古田勝に対し、各金九〇万円、原告組合に対し、金六〇万円並びに右各金員に対する不法行為後の日である平成六年五月二八日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することし(ママ)、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六四条但書を適用し、主文のとおり判決する。
(弁論終結の日 平成一〇年一月一九日)
(裁判長裁判官 近下秀明 裁判官森實将人、裁判官上寺誠は、いずれも転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 近下秀明)